論文提出者の声 – 中島 卓裕

臨床系/博士
現所属:名古屋学芸大学ヒューマンケア学部専任講師

博士学位論文執筆を終えた今思っていること

2022年11月、博士(心理学)の学位を名古屋大学より授与され、長きにわたる自分の博士課程が一区切りされました。博士前期課程入学から数えて約9年、名古屋大学教育学部入学してから数えて約13年かけて博士号を取得した今自分が思うことは、なんだかよく分からないがすごそうな剣がついに抜けたという気持ちです。
博士号と言うものは先人たちによく「足の裏の米粒」や「普通自動車免許」のようなものだと例えられてきました。取らないと気持ち悪いがとっても食べられないもの、免許証を取得して初めて公道に出られるようになるものといった意味で自分も諸先輩方から教わってきました。ただ、完成した自分の博士論文を改めて見た今感じることは、足の裏の米粒を取った時や免許センターで免許証を交付された時よりもいささか大きな達成感と期待、そして怖さを感じています。
振り返れば自分は優秀な学生ではなく、先生方からしたらむしろ不真面目な学生の分類にカテゴライズされるような学生だったと思います。学部生の頃は単位に必要な最低限のラインでしか学びを深めず、大学院に入るのもギリギリな状態でした。大学院進学後も、臨床活動ばかりにかまけて研究活動を避けて、同期が学会発表や論文投稿をしているのを遠くで眺めてすごいなーと思っていただけでした。こんな自分でも気にかけてくれたり、研究室を越えて声をかけてくれる先生方や先輩方がいてくれたおかげで、どうにか大学院生活を送ることができました。そのようなあたたかい人のつながりにあふれていることは、この大学院の素敵なところだと改めて思います。
これから大学院に進学する皆さんも、大学院生活を通してどうしようもないと感じられるような状況や行き詰まりに陥る場面があると思います。これは個人の能力の問題ではなく、誰しも必ず生じるイベントだと思います。そのような時には周りの人を頼ってください。大学院生活は常に孤独との対峙が求められます。学部時代の友達は就職して仕事人として活躍している一方で大学に残っている自分に対しいろいろな思いが生じてきて、自暴自棄に走りたくなる時もあるかもしれません。しかし、皆さんの周りにはたくさんのリソースがあります。指導教官はもちろんのこと、研究室や研究テーマが違う先生方や先輩方、同期や後輩たちも相談に乗ってくれたり、時には手を貸してくれることもあります。この大学院ではそのようなつながりの中で、孤立することなく様々な難題に立ち向かっていくことができます。
振り返ると、自分の研究が少しずつ進展するきっかけになったのも、自分の周りの人にヘルプを出し、相談するようになってからでした。いろいろな意見をもらう中で、自分の研究を多面的に検討することができるようになっていきました。また、直接やりとりをするだけでなく、先行研究を通して先人たちの知恵を借りることもできます。研究において自分が悩んでいることは、ほとんどの場合先人たちも同じ困難にぶつかり、乗りこえてきているものです。孤独を感じやすい大学院生活ですが、皆さんの周りにはたくさんの仲間がいます。自分の頭だけで迷ったときには、仲間との対話や先人たちの知恵をたくさん借りてください。
さて、冒頭で述べたように博士論文執筆を終えた今自分が感じていることは、「なんだかよく分からないがすごそうな剣がついに抜けたという気持ち」です。今はよく分からないこの剣を、ただ飾っておくだけではただのなまくらになってしまいます。この剣を携えて冒険をし、様々なことにチャレンジしていくことで剣はどんどん磨き上げられていくものだと思います。先人たちが言うようにもしかしたら本当に足の裏の米粒のようなものなのかもしれませんが、食べられない米粒やペーパードライバーにするのか、ただの飾りにするのか、それとも聖剣エクスカリバーにするのかは、今後の自分次第だと感じています。そしてその過程の中で、自分を助けてくれたつながりを後世につなげていくことが、剣を抜いた者の使命なのだと思います。とりあえず今はそう感じています。
最後に、これから大学院進学を目指している方や博士号取得を目指している方、ひとりで剣が抜けない時にはいろいろな人に手伝ってもらいましょう。そして、だれか困っている人がいたら手を差し伸べてあげてください。この大学院では仲間と一緒に支え合いながら研究を進める経験をたくさん積めると思います。皆さんのチャレンジを応援しています。

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