メッセージ

困難な時代の教育学と心理発達科学の探究

名古屋大学大学院教育発達科学研究科長
名古屋大学教育学部長

高井 次郎

学部の創設

名古屋大学教育学部は、旧制の岡崎高等師範学校を基盤に、また先に設置された文学部の教育学と心理学の一部の分野を包括した教育研究組織として、1949年に創設されました。ちなみに2019年は創設70周年にあたることから、同年の秋に、関係者のみなさまとともに記念式典・祝賀会を執り行ったところですが、本学部の学統と学知の伝統の重みと本学部が置かれている社会的な役割と期待を痛感する貴重な機会となりました。

学部の特徴

本学部の創設当時、他の旧帝国大学系においても同種の学部が設置されました。それらと比べた場合の本学部の著しい特徴は、旧制高等学校のリベラルアーツの雰囲気と高等師範学校の教育実践研究とがうまく融合され、その伝統が脈々と受け継がれていることです。すなわち、教育学と心理学に関する理論知と実践知の融合的な探究の姿勢であり、これは本学部のカリキュラムにも具体化されており、例えば、実験実習や教育研究実習のように、キャンパスでの学びを基盤にしつつ、国内外の学校・地域・企業などの実践現場での実証的な研究やフィールド調査、ケース・スタディに重点をおいた科目を多く提供していることに現われています。

本学部のミッションと卒業生の活躍

本学部は、久しく教育学科と教育心理学科の2学科体制をとってきましたが、21世紀の課題と展望を見据え、1997年に人間発達科学科の1学科に再編しました。現在の学部は、人間発達科学科の1学科からなり、教育学系の3コース(生涯教育開発、学校教育情報、国際社会文化)と心理学系の2コース(心理社会行動、発達教育臨床)から構成されています。このプログラムの名称に示されているように、本学部のミッションは、教員養成系の教育学部とは異なり、人間の成長発達と教育のさまざまな問題を教育発達科学の知見と方法によって、幅広く探究していくことにあります。
本学部の卒業生は、これまでに4111名(令和元年度卒までの累計)にのぼります。例年、2割強の卒業生が大学院へ進学、同じく2割程度の卒業生が国家・地方公務員(教員も含む)に、その他の卒業生は、本学で培った知見を活かして、金融、サービス、製造、通信・情報、物流、人材派遣、コンサル事業など幅広い企業で活躍しています。

研究科の設置と沿革

他方、大学院の研究科は、1953年に教育学研究科(教育学、教育心理学の2専攻課程)として設置されました。その後、時代の要請に応えて、発達臨床学専攻課程が設置された時期もありましたが(1990年)、2000年の大学重点化を機に、現在の教育発達科学研究科(教育科学と心理発達科学の2専攻課程)に改称、再編し、同時にリカレント教育のニーズに応えるべく高度専門職業人コースを設置しました。さらに2006年には、教育科学専攻の後期課程に教育マネジメントコース(我が国では初めてのEd.D.プログラム)を、続いて心理発達科学専攻の後期課程に心理危機マネジメントコースを開設し、基礎理論をベースにしながら実践的・実務的視点を重視した高度で応用的な研究遂行能力と学識を有する専門家を育成してきました。

研究科のミッションと特徴

本研究科は、教育科学及び心理発達科学研究における学術理論と方法を教授、研究し、その高度な専門性と深い学識、卓越した能力を培うことにより、これらの研究領域における学術研究者、高度な専門技術者、実践家を養成することを目的としています。
この目的を遂行する上での本研究科の著しい特徴は、基盤的理論研究分野から教育や臨床の応用的分野にいたる実践的研究に取り組んでいることです。本研究科は、教育科学と心理発達科学の2専攻からなり、教育科学専攻に5講座(生涯発達教育学、学校情報環境学、相関教育科学、高等教育学、生涯スポーツ科学)、心理発達科学専攻に3講座(心理社会行動科学、精神発達臨床科学、スポーツ行動科学)がおかれ、35の研究領域で構成されています。
本研究科の学位授与者数(令和元年度までの累計数)は、修士学位1545人、博士学位(課程博士)271人(論文博士)141人にのぼります。修了生のほとんどは、教育科学と心理発達科学またその隣接分野の学術研究者、専門技術者、実践家等として活躍しています。

困難な時代の教育学と心理発達科学の探究とその社会的役割

本研究科は、21世紀の国際化と情報化、高齢化などの現代社会の急激な変化に対応した人づくりや生涯にわたる人間形成と教育の在り方を探究する総合的、学際的研究を進めてまいりました。しかし、現在の社会を特徴づける緊急性は、私たちの教育研究のあらゆる諸相において、人間のあり方をめぐるより洗練され研ぎ澄まされた知見を要請しています。コロナ禍の緊急事態に対する緊急措置はしぶとく生き残り、常態化していくかもしれません。このニューノーマルにおいて、人間と社会に真に求められるもの、今はインビジブルな次元にあっても想像力において是非とも明示化し構築すべきものについて、みなさんとともに探究していきたいと考えます。

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