教員・研究紹介

教授:南部 初世

NAMBU, Hatsuyo (京都大学大学院)教育学修士

(1)戦後ドイツにおける学校管理運営理論及び制度に関する研究
ドイツの教育に関わる、とりわけ学校と教育行政機関をとりまく政策、制度、理論の問題について、時代の流れを追って分析してきています。
☞研究業績は「研究者総覧」をご覧ください。

(2)日本における学校教育を規定している社会システム総体に関する組織・機能・過程の研究
*行政学、政治学の手法を活用した教育経営・行政メカニズムの解明
中央及び地方レベルでの諸アクター相互の葛藤を視野に入れた教育政策形成・実施過程研究を進めてきました。学校統廃合政策、二元化行政、高等学校教育改革、「社会総掛かりでの教育の実現」をめぐる政策等のトピックスを扱っています。
*学問的アイデンティティの問題(教育経営学と教育行政学)
教育経営学を研究する中で、研究動向と方法が変容し、競合する新たな概念が導入されつつある教育行政学が、教育行政現実に応答可能な理論的基盤をいかに提供しうるのかにも関心を持っています。

(3)学校経営コンサルテーションに関する研究と研究室によるフィールドワーク
比較的長期にわたり、教育行政・学校経営に対する助言活動を実施してきています。評価を機軸とした学校組織開発、教育行政計画と評価、「チームとしての学校」推進、学校統合、いじめ防止対策に係る調査・検証等のトピックスを扱っています。
☞研究室によるフィールドワークは、「教育経営学研究室の特色ある教育研究活動『宗谷教育調査』」をご覧ください。

主要論文・著書

  1. 「ドイツにおける『目標協定(Zielvereinbarung)』制度—学校と学校監督の新たな関係—」(日本教育制度学会『教育制度学研究』第19号 2012年)
  2. 「『教育経営』概念再構築の課題—『教育行政』概念との関連性に着目して—」(『日本教育経営学会紀要』第50号 第一法規 2008年)
  3. 「地域経営における教育委員会の位置づけ−愛知県高浜市を事例として−」(『日本教育行政学会年報』第32号 教育開発研究所 2006年)

教育経営学研究室の特色ある教育研究活動「宗谷教育調査」

名古屋大学教育学部教育経営学研究室では、1992年以来毎年、北海道・宗谷地区においてフィールドワークを実施しています。この28年間に延べ約500人、実人数でも250人以上がこの教育研究活動に参加し、多くの学生のその後の生き方に深く影響を与えてきたものと自負しています。この「宗谷教育調査」は、2度にわたる研究会で平間信雄氏(稚内市立学校教諭)の実践報告を聞いた植田健男助教授(当時)が、23名の学生・研修員とともに調査に入ったことをきっかけに始まりました。
本教育研究活動は、教育学部3年次以降の専門教育の一環に位置づけられ、第2コース専門科目の選択必修科目である「教育経営学演習Ⅲ・Ⅳ—地域教育経営の事例研究—」(春・秋学期各2単位)及び「教育経営学実習」(前期集中2単位)として単位認定しており、「宗谷ゼミ」と呼ばれています。

研究プロジェクト

研究プロジェクト1

「教育経営システムの構造変容に関する総合的研究:社会総掛かりでの教育の実現に向けて」(2020~23年度日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B))
本研究は、「社会総掛かりでの教育の実現」が求められる今日、政策形成・実施過程、学校経営実態、学校教育の原理・歴史、教育領域と福祉領域の人材育成システムを分析することにより、教育経営システムの構造がどのように変容しつつあるのかについて明らかにすることを目的としています。
具体的には、(1)今日進められている諸改革について、政策形成・実施過程の分析と学校経営実態分析を行い、(2)我が国における学校の役割認識と制度構築の歴史分析、学校制度原理分析、ドイツ・アメリカとの国際比較を行い、(3)教員養成課程と社会福祉士及び精神保健福祉士養成課程における教育課程及び教育内容分析、事例校の学校組織文化分析、教員とSSWの教育観・職業観分析、ドイツ・アメリカとの国際比較を行い、(4)以上を総合的に分析して、教育経営システム構造がどのように変容しつつあるのかを明らかにすることをめざしています。

研究プロジェクト2

「人口減少社会における新たな高等学校像—地方創生の基盤としての人材育成—」
(2020~22年度日本学術振興会科学研究費補助金挑戦的研究(萌芽)、2023年度継続中)
本研究は、人口減少社会における新たな高等学校像を提示することを目的としています。
具体的には、①ドイツの近年の学校制度改革と、日本における2000年代以降の高校の多種類化・特色化、再編・統合について整理する、②「より長く共通の教育課程で学ぶ」理念とそのための具体的な措置を明らかにし、ドイツにおける学力差のある生徒に授業を行う特別研修プログラムと実際の授業における活用・成果を分析するとともに、日本の「進路多 様校」、「特色校」等における実践を分析する、③以上を総合的に分析することにより、複数の高等学校を維持することが困難な地域において、地方創生の基盤としての人材育成を行う高校の在り方を模索することを意図しています。共通の課題を抱えつつも、異なる制度理念において対応しようとするドイツの事例を見ることにより、地方創生の基盤としての人材育成を行う高校の在り方についての示唆を得たいと考えています。

研究プロジェクト3

「教育学関連分野に関する学術研究動向−研究知と実践知の相互補完的関係に焦点を当てて−」(2022~24年度日本学術振興会委託研究)
本研究は、教育学関連分野、とりわけ教育経営学・教育行政学・教育制度学及びこれらの近接領域に関する学術研究動向について、研究知と実践知の相互補完的関係に焦点を当てて読み解くことを目的としています。本研究では、まず、1990年代以降その「研究知」と「実践知」がどのように扱われてきたのか、政策の流れとともに整理します。これは世界的にも、緊縮財政と「小さな政府」という条件の下で、行財政改革と一体化した教育改革(NPM型教育改革)が進められ、「アカウンタビリティ」が厳しく問われるようになってきた時代であり、現在の「エビデンスに基づく教育」に繋がる流れでもあり、学術界及び政策形成・実施過程においてどのように認識されてきたのかを分析します。次に、実際に研究成果としていかなる「研究知」と「実践知」が、どのように生み出されてきたのかについて分析を行います。とりわけ研究実施者がどのような経緯で研究課題の設定に至るのか、どのような研究方法を選択するのか、研究実施者の属性や所属学会の動向に着目しつつ整理・分析を行い、両者の相互補完的な関係を明らかにしたいと考えています。

研究プロジェクト4

「日本型教育経営システムの有効性に関する研究:新たな学校像における教育の専門性」(2016~19年度日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)、2021年度終了)
本研究は、「教育の専門性」に着目し、我が国における教育経営システムの有効性について歴史的、比較的に検証することにより、今後求められる教育経営構造を描き出すことを目的としています。
具体的には、(1)2000年代以降進められてきた学校の自律性をめぐる諸改革により、教育経営をめぐる現実がどのように変化してきたのか、理論的・実践的に総括を行い、(2)我が国における学校の役割認識と内部組織・外部関係、教員及びその他の職員の専門性について歴史的に整理し、(3)「チームとしての学校」において構想されている教育経営システムとその課題、そこにおける「教育の専門性」について明らかにし、その有効性を国際比較により検証し、(4)以上を総合的に分析して、今日の教育経営現実に適応可能で、日本的特質を生かすことのできる教育経営構造を提示することを目指しており、この研究課題は上記の研究プロジェクト1に引き継ぎました。
このプロジェクトは、2015~18年日本教育経営学会研究推進委員会における共同研究と連動させて実施しました。

専門領域について

Q どのようなきっかけでこの学問を始めたのですか?

父が転勤族だったために、これまで何度も転校を経験し、幼稚園2校、小学校3校、中学校2校、高校2校に通いました。必然的に、いろいろな学校、教員を見てきたことになりますが、学校によってとても「雰囲気」が違うんですね。この違いは何だろうか?ということをずっと疑問に感じていました。そしてある転校を機に、体罰、いじめ、瑣末な校則による管理、偏差値による輪切り…等々を経験して、学校のもつ「息苦しさ」の背後にあるものに関心をもつようになりました。こうしたことが、この学問を始めたきっかけでしょうか。

現在の研究について

Q 現在の主要な研究の内容を教えてください

学校教育を規定する社会システムの総体について、その組織、機能、過程等の分析によって明らかにすることを目指して研究しており、現在は「学校の自律性」をテーマとして、日本とドイツにおいて展開されている政策形成・実施過程の分析を行っています。ドイツでは現在、各州において多様な「自律的学校」構想が具体化されていますが、それらを対象として、特に、学校監督庁との関係をどのように構築しようとしているのか、教員・生徒・父母を学校においてどのように位置づけようとしているのかという点に着目して分析しています。

Q 今までの研究で一番心に残っている出来事、ハプニングを教えてください

心に残っているというより、常に思うことですが、やはり、自分の研究が多くの人によって支えられているということでしょうか。これまでご指導いただいた先生はもちろんのこと、資料収集等でお世話になった先生もたくさんいます。また、ドイツでも、研究者だけでなく、文部省の方や学校の先生等に貴重なアドバイスをいただくとともに、様々な便宜を図っていただきました。州の教員研修センターに2週間ほど食事付きで無料で滞在させていただいたこともあります。

講義について

Q 授業のねらい、背景を教えてください

学修案内にあるように、教育経営学領域では、教育経営学研究I・IIと教育経営学研究III・IVの2つの大学院ゼミを開講しています。「教育経営学」として捉えられる領域は幅広く、ゼミ参加者はそれぞれ多様な関心を持っています。教育経営学研究I・IIは、ある意味で、「個人戦」であり、各自のテーマに沿って報告を行い、それを多様な観点から検討することを目的としています。それに対して教育経営学研究III・IVは、「団体戦」であり、「教育経営学の生成と展開」という共通の大きなテーマについて、各自が有する観点を生かしつつ解明することを目的としています。

学生へのメッセージ

Q 求められる学生像を教えてください、またその他なんでも結構です。

大学では、自分で考え、行動することが求められます。今までのように「与えられたもの」をそつなくこなすだけではなく、自分で何かを創り出していってください。大学には、そのための「きっかけ」があちこちに転がっています。それをうまくとらえて、あなた自身の学生生活を築いていってください。

指導生からひとこと

「自分がその場に居て、何かを考えたという足跡を残すこと」。ゼミでの発言に関して、南部先生がよくおっしゃる言葉です。受身でなく、主体的に学ぶ姿勢。理解は簡単でも、実践することの難しいこの姿勢こそが、南部先生のゼミでは必要不可欠だと思います。南部先生は、自分の研究領域だけでなく、共に学ぶ仲間の研究領域に対しても主体的な姿勢であることの大切さを教えてくださる、とても素敵な先生です。

一覧へ戻る

ページ先頭へ戻る